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【個人的メモ】【#文春オンライン】「中国スゴイ!」と持ち上げられた無人コンビニ、バブル崩壊でただの箱に

「中国スゴイ!」という文脈で、中国にあるガラス張りの無人コンビニがしばしば取り上げられました。2017年から2018年にかけてのことです。QRコードによるキャッシュレス決済やシェアサイクルの次のネタとして使われたのです。

まさに「あの無人コンビニは今」
 中国を代表するネット企業「アリババ(阿里巴巴)」が「ニューリテール(新小売)」なる概念を提唱し、海の向こうのアメリカでは無人商店「Amazon Go」が出た後、負けじと思ったのか、あるいはビジネスモデルを拝借しようとしたのか、ガラス張りの無人コンビニは中国各地に登場しました。

 無人コンビニは「面積は小さいのでテナント料は安い」「無人なので人件費も少ない」「だからすぐ儲かる」という論法で小売りの未来を提示しました。華々しく登場して、海外にまでその存在が驚かれた無人コンビニですが、最近の「あの無人コンビニは今」的な報道を見るに、ビジネスモデルとしては成功しなかったと結論づけられそうです。

 中国のシェアサイクルの顛末は、車体の傷みが想定していたよりも早く、中古自転車が山のように廃棄されましたが、無人コンビニもまたバブルがはじけたと言えます。B2C(企業対個人)ではなく、客を無視してB2VC(企業対ベンチャーキャピタル)になっていた。誤解を恐れずに言えば、意識の高い人が喜びそうな「明るい未来」を語って融資を受けただけだったのです。

 私も各地で使い勝手を体感するためによく店舗を利用してみました。スマートフォンのマップアプリを開いて、無人コンビニを探してはシェアサイクルを借りて向かい、行く先々で閉店している実態に肩を落としたものです。営業中の無人店舗でも、ほぼほぼ客はいませんでした。無人コンビニがうまくいかないという結果は、実物を見た人なら誰もがうっすら感じることかと思います。

 無人コンビニ関連企業には2017年には93件、総額にして43億元(約645億円)の投融資があったと報じられています。ところが2018年以降、無人コンビニは企業を問わず閉店していきます。

赤字を出し続け、大胆なリストラを決行
 無人コンビニを代表する「BingoBox」という企業は、2017年7月に1億元(約15億円)、2018年1月には8000万ドル(約86億円)の融資を受けています。

 BingoBoxの幹部の一人であった王建氏は、当時の状況を中国メディアに語っています。なんでも2017年には、2か月で中国全土の93%の行政地域から総計6729人もの来客があり、毎日かかる電話の件数は350回と、まさに電話が鳴りやまない状況だったといいます。BingoBoxは、未来を感じる無人店舗なわけですが、問い合わせの多くは、実は「ボックス型無人店舗を設置したい」ではなく、「既存の店舗の無人化改造はできないか」という問い合わせだったそうです。イケイケのBingoBoxは、5000店舗出店という目標を掲げます。広い中国なので、5000店舗あっても多くの人々に認知されるか微妙ではありますが……。

 結果、導入に前向きな北京、天津、成都、大連など37の市や区などの地方政府が、BingoBoxと戦略提携を結びました。北京郊外の門頭溝区もBingoBoxを導入した地方政府のひとつです。門頭溝区は、街の美化目的で同社に声をかけました。政府がイメージするところの街の景観を台無しにする商店やら屋台やらの違法販売者を排除したいというわけです。

 2017年9月に北京で第1号店が誕生しました。同月には22都市で158店舗を展開。2017年末には200店舗を超えました。さらに2018年6月には400店舗まで増えます。5000店舗という目標を掲げる中で、「400店舗も増えた」と言うべきか、「400店舗しか増えなかった」と言うべきかは判断に迷いますが、だいたい融資のために数字を盛る傾向があるので、目標値より大幅に少なかろうと中国人の中ではあまり違和感はないのでしょう。

 さて、400店舗まで増えたBingoBoxですが、同社は毎月500万元(約7500万円)の赤字を出し続けたと報じられています。2018年には社内のリストラを開始し、160店舗を閉店。最も大胆なリストラを行った2019年1月には、1週間で社員を100人以上カットしたといいます。最盛期には500人いた社員も最終的に100人まで減少。同社は、広東省など華南地方などから完全に撤収し、北京などごくわずかな店舗だけが残る結果となっています。

実は「面倒だから」客が入りたがらない
 確かに「面積は小さいのでテナント料は安い」「無人なので人件費も少ない」という論法は間違っていないんです。たとえ商品の品出しのために人を使ったとしてもまだ安い。同社資料では、一般的なコンビニに比べて運用コストはわずか15%に削減できるとしています。運用コストは毎月2500元(約3万8000円)で済み、従来型コンビニの月1万5000元(約22万5000円)よりはるかに安いとあります。建設設置コストは8万元(約120万円)で、純利益は25%前後、1日の売上が1000元(約1万5000円)なら2年で回収できるという計算です。

 でも、ほとんどの場所で誰も買わないから売上が伸びなかった。収入がなければコストが低かろうと儲かりようがありません。293店舗あった2018年9月中旬時点で、1日の売上が1000元(約1万5000円)を超えていたのは北京市浙江省四川省などにあるわずか40店舗で、逆に108店舗は1日の売上が300元(約4500円)にすら届きませんでした。

 無人店は路面にあります。高層マンションが建ち並ぶ都市で、1階まで下りれば個人商店やコンビニやスーパーなど様々な商店の選択肢があります。スマホでアプリを起動してドアロックを解除してなんて面倒くさいことをするよりは、馴染みの店でさっと買ったほうが手っ取り早いものです。夏の汗だくの時期や冬の極寒の時期にスマホを取り出してアプリを起動して店のロックを解除して、なんて作業はストレスしか生みません。酷暑なら、さっさとエアコンの効いた涼しい店内に入りたいものですよね。1階まで下りなくても、今はUber Eatsのようなデリバリーサービスは多くの店に対応していて、家まで運んでくれます。

 北京の物美便利店という有力なコンビニチェーンも、無人店のテスト運用を行いました。夜だけ無人化するというものです。すると、有人であれば夜間1500元(約2万3000円)売上があるところが、無人にしたら売上がその3分の1の500元まで落ちるという結果になったのです。北京で夜間に店員を1人雇っても人件費は200元で済むので、これでは大損という結論になりました。無人店は面倒なのでお客さんが入りたがらないのです。

 さらに無人コンビニでは商品にRFIDタグの入ったハイテクシールをつけているところが多いのですが、このRFIDタグは無料ではなく、1つにつき0.3元(3角。約5円)かかるので、これが商品価格に跳ね返ります。RFIDはコストがかさむため、次にハイテクな画像識別技術をレジに採用し、コスト削減を図りました。すると、一部新製品については識別用のデータが不足しているため、識別率が低いという結果に。客としてはハイテクセルフレジで新商品が認証されず、ストレスがたまるだけで、これもまたリピーターが忌避する要因となります。

 先に各地で撤退し、店舗数が減ったと書きましたが、結果が出ないので各地の政府が無人コンビニを見限ったのでしょう。結果研究開発費は削減され、新システムや新商品の登録もままならなくなります。

ルフレジ導入は間違っていない
 中国連鎖(チェーン店)経営協会会長の裴亮氏は、こうコメントしています――「小売は突き詰めれば商品のコストを最低まで下げること。ニューリテールが成功するかは、コストが下がるか否かにかかっている」。無人コンビニは店舗数が少ないため、物流配送の効率が悪いことから、しばしば特定の商品が不足することもあり、消費者のニーズに応えていなかったのです。

 いや、無人コンビニは必ずしもダメではないんです。例えばホテルの中で無人コンビニを見たことがあります。それはあってよかったと思った。小腹を満たしたいときに、ロビーフロアに下りればホテル内に無人コンビニがある。ホテルの外に出て商店を探すのも面倒だし、エアコンがきいたフロアでアプリを起動して店のドアロックを解除して、ジュースなりポテトチップスをセルフレジで買う。それは悪くない経験でした。

 ガラス張りの空間ではないですが、無人空間に自販機だけが並んだ店舗の中でも、いわゆる“おとなのおもちゃ”を扱っている店は中国全土で普及しています。中国でもそういった店での買い物は恥ずかしいようですね。中国の地図アプリで「無人商店」と入れて出てきた店舗は8、9割、いやそれ以上の割合で無人のアダルトショップです。意識の高そうな技術が、意外にも意識の低い現場で大活躍していました。

 今、北京や上海では「便利蜂」や「猩便利」というコンビニが元気です。これは店員はいるけれど、セルフレジで精算するコンビニです。店員もいるから、肉まんやおでんなどもあって食べられる。結局レジだけ無人化すればよかったとなれば、日本のスーパーや一部コンビニで採用されているセルフレジ導入という方向性は、間違っていなかったと言えます。

 ガラス張りの無人コンビニは確かに未来感のある店舗でしたが、中国でもリアルな利便性を求めた先には、日本の取り組みと同じ結果いなりました。中国と比べて派手さはないですが、日本も捨てたもんじゃない。

山谷 剛史