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【#ニューズウィーク日本版】韓国「犬の虫下し薬でがん治療」が話題に

わらにもすがりたい患者には、いつか治るという心のよりどころが必要だが......
犬用の虫下し薬ががんに効く!? そんなウソのような話が韓国で話題となっている。この話題は、当初がん患者のコミュニティーサイトを中心に口コミで広がっていたが、お笑い芸人キム・チョルミンが、この虫下し薬を購入し服用していることをSNSでアップしたことで一気に注目されるようになったのだ。

今年8月、キム・チョルミンは肺がんのステージ4と診断されたことを自身のフェイスブックで公表した。その後、肺以外にも骨、リンパ腺、肝臓にも転移したが、ファンから薦められた犬の虫下しの服用を始めたという。

現在、服用開始してから10週目。本人のSNSによると服用開始7週目の時点で、血液検査の数値は正常となり、肝臓の数値も以前に比べ安定し良好だという。果たしてこの犬用の虫下し薬の効果は本物なのだろうか?

<人気に目をつけた個人輸入での転売も>

前述のがん患者のコミュニティサイトへの投稿を見ると、虫下し薬の成分「フェンベンダゾール」ががん治療に有効性を発揮するという。もちろん、今のところその効果は、医学的に証明されていない。

それでも商品を求める患者は後を絶たず、韓国内では品薄状態が続いており、海外のショッピングサイトから個人輸入する人も増えていて、ネットで「フェンベンダゾール」で検索をかけてみると、輸入物を販売する広告がずらりと登場する。

しかし、動物用の薬は「動物薬品等取扱規定法」により、許可された動物病院及び、動物薬局でのみ販売可能と決まっている。もしも、無許可で個人販売している場合には、5年以下の懲役か5千万ウォン(約450万円)以下の罰金にあたる違法行為だ。また、合法的に手に入れたとしても、そもそも動物用の薬であるため、飲み合わせなどによって人体に悪い影響を与えてしまうかもしれない。

また、最近では動物用の虫下しが品薄で手に入らないため、人間用の虫下し薬を購入する人が増え、売り上げを伸ばしているという。動物用にしても人間用にしても、医師の許可なく大量に服用するがん患者が出てくるのではないかと心配されている。

得体の知れない治療法の発信源は?
いったい、犬用虫下し薬ががんに効くという話はどこからやってきたのだろうか? この噂が広まり始めたのは今年の9月頃だった。アメリカ・オクラホマ州在住のジョー・ティッペンズという人物がYouTubeで、「自分は末期の小細胞性肺がんだったが、犬用の虫下し薬を服用した結果完治した」という衝撃の動画を配信した。動画によると、彼は、2016年に余命3カ月の診断を受け、その後2年間薬を服用し続けたという。この動画ががん患者を中心に広く拡散され、韓国で虫下し薬ブームが始まったのだ。

しかし、ジョー・ティッペンズの動画の信ぴょう性に疑いを持つ人も多い。11月28日、韓国の報道番組『イ・ギュヨンのスポットライト』では、早速この話題を追跡している。番組内でスタッフは彼のカルテと完治結果を入手、公表し話題となった。ジョー・ティッペンズ本人は「がん細胞は、肺以外にも首や胃、肝臓など全身に広がっていた」と証言していたが、スタッフが確認したCTスキャンでは、肺と肝臓のがんのみが確認された。

また、アメリカでの報道では、証拠として使用されたCTスキャンは彼のものではなく、一般資料用写真だったことも発覚している。さらに、犬用の虫下しで完治したと主張しているが、彼は、余命3カ月宣告がされてから医師の提案のもと、1年以上も「新薬K」と呼ばれる抗がん剤臨床試験に参加していたことがカルテに記載されていた。このことから、必ずしも犬用の虫下しががんに効いたとは言えない、という声があがっている。実際、先に紹介したお笑い芸人のキム・チョルミンも虫下し薬のほかに、放射線による抗がん治療を併用しているのだ。

<医療関係者は服用しないよう呼びかけるが>

こうした騒動を受けて、韓国の食品医薬品安全処(日本の厚生労働省に相当)は、「犬の虫下し薬ががん治療に効果があるという説にはまったく根拠がない。人を対象に効果・効能を評価する臨床試験が行われていない。動物の腫瘍が促進されたという動物実験もある」と注意喚起を呼びかけた。また、韓国医師会も「抗がん剤と併用すると、抗がん剤の効果を低下させたり、予期せぬ副作用が発生する」と「フェンベンダゾール」を利用しないよう発表した。

しかし、今でも虫下し薬の効果を疑わないがん患者は増え続けている。虫下し薬服用記録をアップし話題となっていた韓国人ユーチューバーのアン・ピンゴは、先月直腸がんのためこの世を去った。彼は今年4月にステージ4を宣告された後、病院での抗がん治療を拒否し、自宅での独自の治療法を行ってきた。7月からその様子をYouTubeにアップし続け、ちょうど噂が流れ始めた9月頃から犬用虫下し薬の服用を開始していた。

噂の発信元であるジョー・ティッペンズのがんは本当に犬用の虫下し薬で消滅したのか? いまだ真相はわかってはいない。しかし、実際に余命3カ月のがん患者だった彼が、今現在元気になって生活しているということは事実である。新薬だったにしろ、虫下し薬だったにしろ、はたまた、それ以外の何らかの効果だったにしろ、一人でも多くの人を救うためにもその理由が明らかになることに期待したい。

医療科学の進歩が進み、がんを克服する人は増えているとは言われているが、今でも死亡率は高く、長期にわたってがんと戦っている人も多い。がんに限らず病気になった患者たちはわらをもすがる気持ちで、効果があったと言われるさまざまな治療や、ときには噂レベルの民間療法を試している。犬の虫下し薬ががんに効いたとユーチューブに動画がアップされただけで、ここまで大騒ぎになるのもその為だ。それは、彼らにはもしかしたら想像もできない何かが病気を消滅させてくれるかもしれないという「心のよりどころ」が必要だからで、それが明日を生きる希望に繋がっている。

だからこそ、今回の虫下し薬については、もしがんを治す効果がなかったと証明されたときに、信じた患者たちがどれほど落胆するかを考えたうえで発表する必要があったのではないだろうか?

ウォリックあずみ