日本の敵速報

日本の敵に関する記事をまとめていきます

【#時事通信】沈黙の北朝鮮、次はどう動くのか

 拓殖大学大学院客員教授・武貞 秀士
 新型コロナウイルスが中国から世界各国に飛び火し始めた1月24日、北朝鮮はいち早く中朝国境で中国からの入国者を受け入れない措置を講じた。
 中国から年間10万から15万人の旅行者を受け入れる北朝鮮にとり、中国発の新型コロナウイルス拡散は、最大の懸念事項だろう。

◇中国人を拒否
 北朝鮮は消毒液、マスク、検査用具が不足しており、医療体制が十分ではない。

 最大の貿易相手国である中国からの入国を拒否した北朝鮮にとって、「背に腹は代えられない」措置であった。中朝国境の往来制限は政治的な理由からではなく、保健衛生上の理由からだった。

 その北朝鮮が、今年に入って沈黙を続けている。昨年末まで北朝鮮は積極的に国際社会に対して、トランプ大統領との協議で残された時間は少ないとして、米国からの制裁緩和の提案を待つと米国にメッセージを送ってきたが、それがパタリとやんでしまったのはなぜか。

 12月末に4日間という異例の長い時間の党中央委員会総会が行われた。重要な決定があり、恒例の1月1日の「新年の辞」を省略した。

 金正恩委員長は、7時間に及ぶ総合報告の中で、「積極的で攻勢的な政治・外交、および軍事的対応措置を準備する」と述べた後、人事を大幅に入れ換えた。

 ◇外交人事の意味
 注目すべき人事は、李善権・新外相の就任である。李善権氏は祖国平和統一委員会委員長として南北協議を担当してきた。元軍人であり、韓国ではよく知られた人物である。
 平昌冬季五輪が開かれた2018年、一連の南北協議を総指揮した人物である。協議では李氏が韓国の交渉陣を翻弄するような場面もあった。
 米朝協議の経験がない南北協議の責任者を、米朝協議を担当する外交陣のトップに据えたのには、重要な意味がある。
 これから北朝鮮米朝協議をするときには、南北関係を深く絡ませて協議する準備なのである。
 李善権・新外相は、米朝協議が再開されるとき、南北協議での経験を活用して、対米交渉に臨むこともあるだろう。南北協議を米朝協議に先行させるような流れもあり得る。
 元軍人である李外相が、米国に対して強硬路線を取るというよりも、米朝と南北を直接絡ませた政策を取るのである。

◇「米朝」と「南北」
 しかし、米国は米朝と南北という二つの協議を絡ませることを嫌う。韓国が米国の意向を無視して南北協議を先行させる可能性があるからである。米韓間の摩擦の種が増えたのである。

 今、韓国民の関心は、4月の国会議員選挙、それに向けての保守系野党統合の行方と新型コロナウイルス対処に集まっている。

 2月上旬、韓国を訪問したが、ソウル市内には中国人の姿は消え、マスク姿の市民が増え、地下鉄、映画館、大型スーパーの客が激減していた。北朝鮮問題どころでないという風景だった。

 しかし、文在寅大統領が新年のテレビ会見で示唆したように、韓国大統領府は米朝協議がこう着状態であっても、南北対話再開の機会を待っている。

 昨年2月のハノイ米朝首脳会談が合意なしに終わった後の北朝鮮が唱える「新しい道」の一つは、対南政策の新機軸だろう。最近の北朝鮮の人事はそのことを示唆している。

 (時事通信社「コメントライナー」より)

 武貞 秀士(たけさだ・ひでし)
 朝鮮半島の安全保障問題の第一人者。1949年生まれ。慶応大学大学院博士課程修了。防衛研究所で長年活動し、統括研究官。2011年の退官後、韓国の延世大学教授などを経て、19年4月より現職。米韓中と精力的に研究交流し、日本のテレビのコメンテーターとしても活躍。著書に「なぜ韓国外交は日本に敗れたのか」「東アジア動乱」など。